「これでどれほどのものが買えるのだ?」
 市場はたくさんの人間でごったがえしていた。
 客寄せの声がいたるところでかかる中、二人は歩く。
 問われて、アウレシアは頭の中で計算する。
「そうだな。贅沢さえしなければ、いいとこ十日働かずに暮らせるってとこかな」
「それは多いのか? それとも少ないのか?」
「まあ、多くはないかな。あんたの賞金はあたしらが生活で使う銅銭のアンブル200枚と銅貨のリブル3枚だから、ものの売り値を見ながら、買い物してごらんよ」
 イルグレンは市場に並ぶ品物を熱心に眺める。
 しかし、すぐに気づいた。
 自分が身に着けていたものや、食べたり飲んだりしていたものが、いかに豪勢であったか。
 質のよいものもあるにはあったが、それでも、イルグレンが普段着ていた絹は、市場では金貨でなければ買えなかった。
 今来ている、渡り戦士と同じ衣服は、銅銭で簡単に賄えるのに。
 食べるものも、皇宮での一度の食事に及ぶ量を得るには、銅貨など自分の持つ分では到底足りない。
 しかも、ほとんどは食べ切ることもなく、残されたまま片付けられていた。
 宴席ともなると、想像もできぬほどの食べ物が無駄になっていたことになる。
「こんなにも、生きるためには金を使わなくてもいいのか? 皇族とは、何と無駄な金を使うのだ。その金は、どこから出ているのか知っていただろうに? 皇族とは、働きもせぬのに、なぜ当然のようにその金を得て生きているのだ?」
 勿論、イルグレンも一通り皇宮で教育を受けたのだから、国庫が国営の産業と国民から納められている税金で潤っていたことは知ってはいた。
 港もあるために、貿易をしていたことも、関税をかけて利益を得ることも、知っていた。
 だが、どれだけ国民が税金を取られているのか、それがどのように使われているかなど、全く知らなかった。
 知ろうとも、しなかった。