「――」
 言葉をなくし、アウレシアはイルグレンとともに、しばし夜明けの空を眺めていた。
 火のはぜる音が、時折聞こえるだけの、静かに哀しいひと時。

「夜明けというものは、淋しいものなのだな」

 そう言うイルグレンこそ、淋しそうに見えた。
「グレン――」
 視線を感じたのか、イルグレンはアウレシアを見つめ、静かに微笑った。
「お前が起きてきてくれてよかった。
 淋しい夜明けも、一緒にいてくれるものがいれば、淋しくなくなる。
 誰かと一緒にいるのは、とても、大切なことだ。
 私は、今この時、ここに――私の隣に、お前がいるのがとても嬉しい」
「――」
 アウレシアは思わず手を伸ばし、指先で目元に触れる。
 間近で見る皇子の顔は、一人前の男の顔をしていた。
 端正なのに、どこか憂いを帯びた、若い男の顔。
 眼差しは、美しく滲むような薄紫だった。

「あんたのその瞳――夜明けの紫だ」

 イルグレンも手を伸ばし、アウレシアの頬にそっと触れる。

「お前の瞳は、星のような琥珀だな」

 互いの瞳を覗き込むように近づく。

「とても、美しい色をしている――」

 互いの瞳を見つめながら、どちらも瞳を閉じなかった。
 互いが、頬に触れた相手の手に、自分の手を重ねた。
 そっと近づく二つの影が、静かに重なる。
 くちづけは、優しく触れ合って離れた。
「――」
 それから、もう一度。
 今度は互いに瞳を閉じた。
 深く長く、感触を探るように触れ合って、何度も何度も繰り返された。

 星が消えていくのも忘れるように。