「上出来だよ、皇子様。ライカよりよっぽどよくできてる。火の番なんて、退屈だろうに」
「星を見ていたのだ。寝る前にライカがいろいろ教えてくれた。星を読めば、方角もわかるのだな。お前達のような渡り戦士は、みなそうして位置を知ることができるのか?」
「ほとんどはね。依頼されれば、砂漠に行くときもあるし、山越えや海を渡るときもある。星が読めりゃ、とりあえずどこに向かえばいいかはわかるからね。星だけじゃなく、月の形と見える時間や位置でも、今どこにいるかわかるよ」
「お前達は、すごいな。どこででも生きていけそうだ。お前達ほど自由な者はこの世界にはいないのではないか?」
「大げさだなあ。確かに、どこにでも行けるし、どこででも生きていけるけど、それがいいことなのかはわかんないさ。一つの所にずっといたいっていう人間もいるし、多分、そういう人間のほうが多いね。あたしらのほうがきっと、珍しいほうの部類なのは間違いない」
「そうか? 私は、こちらのほうがいいな。いつも違う景色を見ていられるではないか。天幕で寝るのも好きだ。料理をするのも面白いな。馬に乗るのも楽しいし、私は馬車にずっと押し込められているより、今のこの旅のほうがずっといい」
「まったく、あんたは変わった皇子様だよ」
「これを楽しくないと思うのなら、私は変わった皇子でいい。お前達といて、新しいことを覚えていくのはすごく楽しい。だから、変でもいいのだ」
 自慢げに胸を張るイルグレンに、アウレシアも笑った。