「グレン、あんた何してるんだい?」
「火の番だ」
 当然のように言うイルグレンに、アウレシアはまたかと顔を顰めた。
「ライカは?」
「そこで寝ている」
火を挟んで向こう側で、アルライカは毛布を体に巻きつけて、背を向けて横になっていた。
「あんにゃろう。護衛が寝てどうすんだ」
 起こしに行こうとしたアウレシアの手を掴み、イルグレンは小声で止める。
「違う。私が変わってくれと言ったのだ。火の番をやってみたくてな。ライカは嫌がっていたが、私が無理に頼んだのだ。だから、天幕には戻らず、そこで寝ているのだ」
そこで、寝ていたアルライカが大きくくしゃみをした。
 毛布を引き上げてこちらに向きを変える。
 アウレシアの視線を感じたのか、目を開ける。
「――ん、レシア、なんで起きてんだ?」
「そういうあんたはなんで寝てんだよ。まったく、交代してやるから、天幕で寝な」
「お、いいのか。じゃ、頼むぜ。ありがとよ、グレン」
 大きな体を伸ばし、大きく欠伸をすると、アルライカは毛布を体に巻いたまま天幕に入っていった。
「まったく、何にもなかったからいいようなものの、火の番がしたいなら、いいなよ。一緒にやってやるから」
「火の番は一人だろう? 誰かと一緒では、もう一人が眠れないではないか」
「あんたに一人で火の番させて、あたしらが寝てるわけにいかないだろ。護衛をなんだと思ってんだよ」
 呆れたように隣に座るアウレシアに、イルグレンは小さく笑う。
「護られる側というのは、つまらないものだな。私は護る側のほうがいいな。
 ほら、火の番だってちゃんとできているだろう? ライカに教わったとおり、きちんと消さずに一人で見張っていたのだ。周りにもきちんと気を配っていたぞ。怪しい者も、食料を狙う獣も来なかった。上出来だと思わないか?」
 どこまでも天然な皇子は、アウレシアの褒め言葉を待っている。
 苦笑しながら、アウレシアは肩を竦めた。