皇子の毒殺未遂事件の次の日からは、アウレシア達は四六時中皇子と一緒にいることになった。
 事の顛末は知らされているだろうに、相も変わらずのほほんとした天然皇子は、渡り戦士の一行と行動をともにできることを却って喜んでいた。
 生まれたときから命を狙われている所為か、動揺することもなく、この二週間の様子となんら変わりもない。
 それどころか、馬で移動することに喜び、何を見ても嬉しそうにしている。
 おしゃべりの相手は、もっぱらアルライカだったが、言葉少なげにソイエライアも相手をしている。
 男同士ということもあってか、イルグレンはあっという間に二人と打ち解け合ってしまった。
 普段は他人と距離を置きたがるソイエライアがあのように皇子の相手をしている所を見ると、個人的に気に入ったのだろう。
 同じ金の髪に、同じ護衛の服――身代わりとなるため、ソイエライアが同じものに着替えた――一見した所、歳の離れた兄弟のように見えなくもない。
 もしも、毒が北の町で買った食料にあらかじめ入れられたものであるなら、当面は皇子の命は無事かもしれないが、護衛の中に刺客がいるのなら、事は厄介だ。
 宰相のエギルディウスは、この人選には慎重に慎重を重ねたらしいが、人のよさげなあの護衛達の中に皇子の命を狙う者が紛れているのだとしたら――
 もっとも、国が滅ぶ前に国元を出たのだから、この中に刺客がいるというのも妙な話だ。
 皇子を狙っていたのは、皇后派の筈。
 厄介払いできたのだから、命を狙う必要などないではないか。
 しかも、内乱時、皇族は姻戚も含めてそろって処刑されたのだから、今更命を狙われるとはどういうことなのか。
 しかも、銀に反応する毒を使うなど、見つけてくれと言わんばかりだ。
 ずさんすぎる。
 運よく死んでくれたらいいとばかりのこの無計画さは何を意味するのか。