「皇子さまぁ!?」

 素っ頓狂な声が出たと、我ながら思った。
 しかし、野営地を片付けながらのアルライカの一言は、アウレシアには驚きだったのだ。
「レシア、声がでかい」
「ラウ・フラウメアっていったら、暁の――」
 そこでアルライカの手が、アウレシアの口をふさぐ。
 いささか前髪の長い銀色の髪から覗く群青の瞳が、近くなった。
 リュケイネイアスには劣るものの、十分な長身のこの男に押さえ込まれて、アウレシアは大人しく口を閉じた。
「最後まで言うなよ。ソイエに聞こえるだろが。それは禁句になってるんだからな」
 そういうとアルライカは後ろを振り返り、それからアウレシアから手を離し、また寝袋を畳んで縛る作業に戻る。
 暁の皇国、または麗しの皇国と呼ばれる、歴史あるラウ・フラウメア皇国が、半月ほど前に内乱によって滅びたのは、アウレシアのような下っ端の渡り戦士でも知っている。
 アルライカの話だと、ラウ・フラウメアの聖皇帝は、内乱の前に密かに砂漠を挟んで西にある大国のサマルウェア公国の第二公女と婚約という同盟を結んでいた。
 その婚約者となる皇子は、内乱の前にすでに国を出ていたため、命だけは助かったのだという。
 その皇子と御付きの一行を無事サマルウェア公国に送り届けることが、どうやら今回の仕事らしい。
「――おいおい、ライカ。どっからこんな仕事拾ってきたんだよ」
「ソイエだよ。決まってんだろ、そんな怪しげな仕事請け負ってくんのは」

「ほう、何か聞き捨てならないことをどっかのバカが言ってるのが聞こえるが」