「蜃気楼じゃないの? 全然進まないじゃん」
「むくれるのはいいが、顔には出すな、レシア。仕事が来なくなるぞ。どんな仕事だろうが顔色一つ変えずに請けられる様にならんと渡り戦士としてやっていけんぞ」
「女だからって舐められ切ってるのに、今更」
「それでもだ。いつか独り立ちするときのことを考えろ」
「はいはい。親父様の仰せのとおりにしますよーだ」
 舌を出して答えるアウレシアに、リュケイネイアスは苦笑しつつやり過ごした。
 その大人の男の余裕が、またアウレシアには子供扱いされているようで納得がいかない。
 リュケイネイアスは父親のようにアウレシアに接する。
 まだ三十八と若いくせに。
 だが、そんな彼の態度に腹を立てることはなかった。
 それが自分を思って言ってくれていることがわかるからだ。
 戦士としての心構えも、常に的を得ている。
「さて、一足先に迎えに行ってくる。それまでに片付けておいてくれ。多分、すぐ移動することになるからな」
「了解」
 リュケイネイアスが身を屈めると、アウレシアは軽やかにその背から下り、マントを拾い上げると出発の準備をすべく、仲間達のところへ走っていった。