アウレシアは今度は声をたてずに笑った。
「あんたもおかしな男だね。あたしなんかを、綺麗だというなんて」
「お前もおかしな女だ。私を対等の人間として扱う」
「だって、人間が人間に決めた身分が、何の役に立つって言うのさ。
 今、あたしとあんたはこうして向き合っている。そこに、身分が見えるのかい?
 あたしは今ここにいて、あたしを見てるあんたしか見えない」
 その言葉を、イルグレンは嬉しそうに聞いている。
「私は、お前のその考え方が好きなんだ。お前は、私にそれまで知らなかったことを教えてくれる。皇子ではない私でもいいと、教えてくれる」
 無邪気に笑う目の前のイルグレンは、アウレシアに庇護欲に似たような感覚をかきたてる。
 母親のように、姉のように、この年下の皇子を気にかけている自分に、アウレシアは気づいてしまった。
 そんな思いを振り払うように軽く息をついて、アウレシアはイルグレンに言った。

「初勝利の記念に、うまい夕飯食わせてやるよ。今日は、ソイエとライカが作るから味は保証する」