それこそ、自分はこの皇子のことをそんな輩と一緒くたにしていたのだ。
 この天然な皇子様には、そんな気は全くなかったというのに。
 それから、こらえきれないように吹き出した。
「レシア? 笑い事ではない。私は怒っているのに」
イルグレンには、なぜアウレシアが笑っているのか見当がつかない。
「――いや、悪い。あんたを笑ったんじゃない。ただ、自分の早とちりがおかしかったのさ」
「早とちり?」
「ああ。気にしないどくれ。こんな楽しい思いをしたのは、本当に久しぶりだよ。皇子様には、感謝しなくちゃね」
 涙をぬぐいつつ、アウレシアはふと視線を戻すと、イルグレンはそんなアウレシアをじっと見つめていた。
「お前は――美しいな」
「はあ?」
 またこの天然皇子は何を言いだすのかと、アウレシアはまじまじとイルグレンを見つめた。
「どんなに汚れていようとも、お前には生命の輝きが見える。生きている。生きていることを感じている。生きていることを喜んでいる。それが、わかる。お前は生命そのもののようだ」
 イルグレンは、アウレシアの手を両手で敬うようにとり、

「お前はとても美しい。
 今まで私が出会った女の中で――否、生命あるものの中で、お前が最も美しい」

 その指先にくちづけた。
 それは、イルグレンの国が、女性に捧げる最上の礼の形だった。