剣を振るうのは、時間の経つのを忘れることでもある。
 最初は、イルグレンが何度もアウレシアに剣をはじき落とされるので、一時間の内に何度も休憩がてらのアウレシアの指導が入っていたが、今ではそのようなこともなく、休憩もないまま一時間ずっと闘い続けることはざらだった。
 間合いが取れたときに、互いに相手の様子を窺いながら、呼吸を整える。
 力任せではない剣術のため、疲労はするが、ひどくもない。
 それ故に、互いの技の癖を捕らえれば、剣舞のように長く打ち合うこともできた。

 二人は闘うことをいつしか楽しんでいた。

 己れの肉体と精神をぎりぎりのところまで追いつめる。
 決して殺さず、けれど手を抜かず、持てる限りの技で相手に対峙する。
 そこに、身分はなかった。
 性別もなかった。
 偽りもなく、打算もなく、あるのは剥き出しの己のみ。
 それはどこまでも真摯に相手と真向かうことだった。
 それ以外、何も見えない。
 何も聞こえない。

 相手の動きを読み、相手も自分の動きを読む。

 右に左にと交わる剣。

 きらめく刃光。

 研ぎ澄まされた刃音。

 純粋に、目の前の相手と打ち合えることが楽しかった。
 どちらも、この時が終わらなければいいと思っていた。