アウレシアは仲間達を振り返る。
「じゃ、いってくる」
「おう。グレン、がんばれよ」
 アルライカに声をかけられ、イルグレンは笑って返す。
「ああ、今日こそは勝つ」
「その意気だ。レシア、油断すんじゃねえぞ」
「するかよ。グレンに負けるようじゃ、あたしのほうがケイに稽古をつけなおしてもらわなきゃいけなくなるだろ」
「二人とも、暗くなる前に戻れよ。森の中だから、誰か近づいてくれば音でわかるが、稽古中も周りに気を配ることを忘れるな」
 ソイエライアが忠告をする。
「ああ」
「わかった。気をつける」
 ソイエライアの助言を至極真面目に受け止めるイルグレンに苦笑しつつ、二人は森へと歩き始める。
 皇子がこうして外に出て稽古をしていることは、アウレシア達の他は、エギルディウス、ソルファレス、ウルファンナ、そして、皇子の身代わりをつとめている護衛しか知らないのだ。他の者達は、皇子は宰相とともに馬車にずっと籠っていると思っている。
 護衛の者は隊長のソルファレスを含め、東の大陸の出身者に多い金髪の者がほとんどだ。しかも、全員が髪をのばし、後ろで三つ編みにしている。
 だから、皇子が護衛の格好をして歩いていても、遠目には仲間だとしか思わない。
 二人は森の中へと入り、道を外れてひらけた場所へと着いた。
「じゃ、始めるかい」
「ああ」
 すらりと剣を抜く仕草も、慣れたものだった。
 呑み込みの早い皇子様の相手をすべく、アウレシアも気持ちを切り替え、剣を抜く。
 抜いてしまえば、後はもう戦うだけだ。
 二人は互いにそれ以外のことを忘れた。