「レシア、お出ましだぜ」
 先に気づいたアルライカがにやりと笑って言った。
「全く、こっちはまだ馬を止めてもいないってのに、せっかちな皇子様だよ」
大きく息をついて、アウレシアはぼやいた。
 しんがりのアウレシア達が止まる前に、前からずんずんと歩いてくるのは――初めて会った頃の人形のような美しい皇子様とは見違える、若々しい青年だ。
 長く明るい金の髪を後ろで三つ編みにし、長剣を腰に差して大股に歩いてくる。
 夜明けの紫の瞳は変わらないが、表情豊かで、生きる力に溢れていた。
「レシア!」
 アウレシアの姿を認めると、早足は駆け足となり、一気に近づいてくる。まるで主を見つけた子犬のようだ。
「おや、皇子様。今日もやるのかい?」
「当たり前だ!」
 気合満々の皇子の様子に笑いをこらえつつ、アウレシアは馬を下りた。
 山の麓なので、空気は乾燥しているものの、まだ丈の短い草があたり一面を覆っていた。
 まばらな低木のすぐ先には小川が流れている。
 見晴らしはいいが、みんなが野営の準備をしているところで剣の稽古をすることはできない。
「少し戻るよ、グレン。森の途中に少しひらけたところがあったから、今日はそこでだ」
「わかった」