「なんだい、いい年した男達が、小娘のあたしに奢ってもらおうって魂胆かよ。情けないにもほどがある!!」
「何言ってんだ、これまでの恩をこれで返せりゃいいほうじゃねえか。なあ、ケイ?」
「恩はないが、レシア、お前の渡り戦士としての腕を見込んでの依頼だ。断るにしても、真っ当な理由がなければ納得はできん。どうする、やるのか、やらないのか?」
 先ほどとは打って変わった低い声音は、甘さや曖昧さを許さない厳しさがあった。
 渡り戦士として――それは、アウレシアの生業だ。
 私情を持ち込めない、唯一絶対のもの。
 これ以上我を張ることを許されないことは、アウレシアにもわかっていた。
「――くそったれ、やりゃいいんだろ。やってやるよ。全く、子守なんざしたことないってのに」
 ぷいっと剥れてそっぽを向くアウレシアに、苦笑しながらリュケイネイアスは馬ごと近づき、腕を伸ばして宥めるように背中をたたいた。
「すまんな。だが、お前が引き受けてくれて助かった」
「全くだよ。せいぜい感謝しとくれ」
「エギル様からの伝言だ。皇子様は世間知らずだが、心根は優しくて素直だってな。国元にいたときから、剣に対しては真面目に稽古していたそうだ。だが、皇子という身分上、誰も真剣に手合わせすることはできんだろう。あれでも基礎は身についてるから、場数を踏めば、すぐに上達するさ」
「――言っとくけど、あたしは皇子様だからって、情け容赦しないよ。敬語だって、使わない。怪我をさせないようにはするけど、それ以外の特別扱いなんてしないからね」
「あの皇子様なら、そんなこと気にしないさ。今日だって、お前の態度に腹を立ててたか?」
「――」
 言われてみれば、さんざんやっつけても、あれだけ悪態をついていても、怒ったような顔すらしていなかったと、アウレシアは思い返した。
 アルライカの言ったとおり、嬉しそうに剣を合わせていた。
 自分の言葉遣いを気にすることもなかった。
 どうも今まで見てきた貴族様とは全く違っている。
 皇族とは皆あんなものなのかと思うが、それもまた違うような気もする。

 あんな変な皇子、見たことも聞いたこともない。

「あの皇子、頭のねじがちょっと弛んでるんじゃないのかい?」
「じゃあ、少し締めてやれよ。ちょうどよくなるさ」
 リュケイネイアスの言葉に、アウレシアは大きく息をついた。