〈麗しの皇国〉〈暁の皇国〉と誉れ高いラウ・フラウメア皇国がたった三日の内乱によって瓦解したことは、近隣諸国に少なからず打撃を与えた。
 餓えに苦しむ国民の怒りは皇族に向けられ、その血に連なる者は残らず略式裁判の後、公開処刑となった。
 彼らの内乱を成功へと導いたのは、皇族の堕落を目のあたりにしていた皇宮官吏の内通によるものであったと言われている。
 そんな中で、皇国の唯一の生き残りの皇子が密かにサマルウェア公国に落ち延びたという噂が、まことしやかに流れた。
 もちろんサマルウェアはこれを否定し、落ち延びたのは自国と縁戚関係にある数名の貴族のみと、かの皇国との関わりがないことを主張した。
 やがて我こそは皇国の最後の皇子と、失われしかの国の正統な継承を求めるべく近隣の諸国に名乗りをあげる者も現われたが、それらは全て皇子の名を騙る偽者と判明、厳しく断罪されることとなった。
 皇国最後の皇子の噂は、それでも市井を何かと騒がしたが、やがてそれは数多くの憶測とともに、消えてしまった。
 そして、そのような噂があったことさえ、人々は忘れてしまった。
 この後、暁の皇国とかつて呼ばれた地は、どこの国にも属さぬ自由自治区となり、商業の賑わう特別地域として復興し、歴史に名を列ねることになる。

 国が滅びようとも、陽は昇り、沈み、人の営みは途絶えることなく続く。

 ある男の言葉どおり、かの地が再び戦火にみまわれることは永遠になかった。
 餓えて死ぬ者もいなかった。

 そして、かの皇国は、永遠にこの地上の版図から姿を消したのである――