「ぬううぅ。ホントに火酒、買ってくれんのかい?」
「ああ。お前の分で1本だ。報酬からの差し引きもしない。それで忘れろ」
「ソイエ、十年ものじゃないとあたしは極上品とは言わないからね」
「わかったわかった。機嫌なおせ。夜には北の町に着く。あんな豪勢な馬車で移動したんじゃ怪しんでくださいって言ってるようなもんだ。町でもっと目立たないのに変えないとな」
 ようやく気持ちを切り替えて、アウレシアは寄せていた眉根を元に戻す。

 5倍の報酬に大好きな北の火酒。

 特に、火酒は滅多に飲めない高級品だ。
 以前飲んだときの、あのなんとも言われぬ辛口の喉越しを、忘れてはいない。
 それが1本つくのなら、先ほどの天然お馬鹿皇子の暴言など何ほどのことでもない。
「よぉし、仕方がないからあの皇子様はガキんちょだと思って忘れてやるよ」
 速攻で気持ちを切り替えてにんまりとしているアウレシアに、三人はあきれながらも顔を見合わせて苦笑しあった。
 直情径行のある困った娘だが、彼らはアウレシアをすでに身内としてみていたので、手のかかる妹のように世話を焼くのが当たり前になっていたのだ。
 アルライカが小声でリュケイネイアスに話しかける。
「機嫌が直って何よりだぜ」
「ああ、さすがソイエだ。押さえるツボを心得てる」
 機嫌よく話しかけるアウレシアに相槌を打ちながら、ソイエライアはリュケイネイアスとアルライカに片目を瞑って見せた。