「今あんたのために全てを捨てたとしても、いつかそれが苦痛になる。失ったものを悔やんで、あんたを憎むことになる。
 あたしは誰かのために自分を捨てない。
 あんたの後をついていける女じゃない。
 あたしは自分の足で立って、自分の力で生きていく。
 そして、並んで歩いていける男を選ぶ」

 強い言葉だった。
 そして、その強さは自分にはなかった。
 それでも。

 行かせたくない。

 彼女を引き止める術を持たない、これは自分の感傷か。
「レシア!!」
 強く強く、抱きしめた。
 これが、最後の抱擁なのだ。

「――わかっていた。お前は私と一緒に行ける女ではないと」

 滑稽だった。
 女に縋って、引き留めようとして、無理だとわかっていたはずだったのに、夢を見た。
 どこまでも一緒に行けるのではないかと。
 もしかしたら、一緒に来てくれるのではないのかと。

「だが、私にはお前しか見えなかった」

 アウレシアは微笑った。
 それを、触れているだけで感じられるのはなぜなのだろう。
「さよなら、グレン」
「ああ――」
 イルグレンは静かに彼女から手を放した。
 すれ違うように去っていく彼女を、追うことはできなかった。
 檻の中に閉じこめてしまえば、野性の獣は、誇り高く死を待つだけであったから。