アウレシアの拘束は解かれ、彼女はすぐにイルグレンにかけよった。
「グレン!!」
 すでに意識もなく地に伏したままの彼を仰向けにして傷口を確かめる――血を止めないと。
 上衣の裾を引き裂く。
 傷口に当てると、すぐに血で染まっていく。
「グレン、しっかりしな!! ここで死んでどうするんだよ!!」
 なんという愚かな皇子だ。
 女に同情して、自らを刺すなど。
「いくら天然にもほどがあるだろ! 生きるって言ったじゃないか。最後まで、戦って死にたいって――!!」
 流れる血が、押さえても溢れてくる。
 このまま流れすぎたら、死んでしまう。
 焦るアウレシアの手は、見る間に血に染まった。
 その時、黒い外套がアウレシアの傍らに放り出された。
「――」
 アウレシアは、それを放った男をじっと見据えた。
 男はちらりと皇子に目を向けると、アウレシアに向き直り、低く言った。

「もう二度と会うこともないだろう。皇子に伝えておけ。お前が同じ過ちを繰り返すなら、今度こそその首は貰い受けると」

 そうして、男達は去っていった。