「なんだい、あのこ憎ったらしいガキんちょの皇子様はぁ――っ!?」

 旅の準備を整えるために、一行は、一旦西へ向かう街道を離れ、北の町への道のりを進んでいた。
 道案内をつとめる任についた仲間と一緒に先頭を進むアウレシアは、馬上で声を殺しながら叫んだ。
「ケイ、ソイエ、一体なんだってこんな依頼請けたのさ!? 他にいくらだって仕事はあるだろうが」
 振り返って文句を言うアウレシアに、
「レシア、いい加減に機嫌をなおせ。顔に出すなとあれほど言ったのに」
「そうそう、見事な勝ちっぷりだったぜ。世間知らずの皇子様だし、仕方ねえだろ。ぎゃふんといわせたんだからいいじゃねえか」
「一応依頼主だから、忘れろ。報酬は今までの5倍だぞ。西に着いたらお前の飲みたがってた北の火酒の極上品買ってやるから」
 リュケイネイアス、アルライカ、ソイエライアがそれぞれ宥める。
 だが、アウレシアの気をそらしたのは、ソイエライアの一言だけだった。
「何だって? 5倍?」
 それは普段の護衛の報酬を考えても、破格の値段だ。
「そうだ。5倍だ、5倍。どんなに腹が立っても下りるなんて言うな。もったいないだろうが」
 隣に馬を寄せ、平然と言い切るソイエライアに、それでもアウレシアは腹の虫が治まらない。