アウレシアの喉元にあてられた大剣が目に入り、イルグレンは驚いた。
 こうもたやすく彼女が負けるだろうとは、思ってもいなかったのだ。
 視線を男に向けると、男は息を乱してもいない。
 自分達にはとうてい扱いきれぬであろう大剣を片手で扱っているところを見ても、男の強さが並々ならぬものであるのは明らかだった。
 アウレシアが本気を出しても勝てないのならば、自分にも無理だろう。
 何より、気迫が違った。
 目の前の男は、自分を捕らえるためなら、例えどんなことでもするだろう。
「もう一度言う。剣を捨てろ。女を殺すぞ」
 男は低く、言い捨てた。
「その女は雇われた護衛だ。だから、私が死んだ後は捨ておいてくれるだろう?」
「俺の望みはお前の命一つ。できればそれ以上の無駄な殺しはしたくない」
「よかろう。では――」
 持っていた剣を、イルグレンは放り出し、跪いた。
「グレン!?」
「もういい、レシア。大人しくしていろ。私に付き合って死ぬことはない」
 従順なイルグレンの様子に、男は興味深げに呟く。
「潔い皇子様だ」
 苦笑して、男は背後に向かって声をかけた。
「おい、あいつを連れてこい」
 茂みをかきわける音が遠ざかる。