一人をかわせば、計ったように別の一人が仕掛ける。
 一撃以上剣を交えようとはしない男達に、イルグレンは動きを止める暇も無い。
 初めての動きに翻弄され、なす術も無く剣を振るうのみ。
 アウレシアを振り返る余裕さえなかった。
 そこらの剣士よりもずっと強い。
 あの剣術大会のように一人と渡り合うなら、自分にも分はあっただろう。
 しかし、多勢であり、しかも目的は自分を足止めすることだ。
 殺気のない相手を殺すことに、イルグレンは慣れていなかった。
 どうしても腕が鈍る。
 周囲を囲まれ、逃げる隙さえない。
 背中が空いているということがこんなにも心もとないということも、イルグレンは初めて知った。
 これが、命のやりとりというものなのか。
 待ったもない。
 ただ一度しかない。
 死ぬしかない。
 そんなことをアウレシアは繰り返してここにいるのだ。
 それが、生きるということか。

「剣を捨てろ!!」

 有無を言わせぬ強い声が、物思いを破った。
 取り囲む男達の動きが止まった。
 イルグレンは咄嗟に振り返る。

「レシア!!」