刺客達は驚いたように動きを止めていたが、その内の年長者と思しき一人が口を開いた。
「手を引くのは、そっちの方だな。邪魔するなら、お前達も生きては帰さんぞ」
新手は少数だと判断したからに違いない。
強気な態度に、男の肩が軽く震えた。
どうやら笑ったようだ。
「これは俺の獲物なんだ。お前等には狩らせん」
男が手に持っているのは、短剣だけだった。
前に出ると、途端に刺客達は男を取り囲んだ。
体つきは逞しくても所詮一人、多勢に無勢とばかりの状況だ。
だが、大勢との接近戦なら、短剣のほうが分がある。
男が、先に動いた。
途端に、刺客達から悲鳴が上がった。
大きな男なのに、動きは恐ろしいほど素早かった。
相手の懐に入り、見事に急所をつく。
あっという間に三人の男達が首筋を掻き切られて倒れた。
「貴様っ!!」
横になぎ払われた剣を避けざまに、男は足を払って相手を倒し、胸を押さえつけ喉を切る。
悲鳴さえ上がらない。
絶命した男の剣を取り、近くの男に投げつけ、脇腹に突き刺さるのを待たずに、六人目の男の鳩尾に下から短剣で抉るように突き上げる。
アウレシアは、その戦いぶりを驚愕とともに見据えていた。
刺客は、決して弱くはない。
それどころか、訓練を受けた凶手だ。
それなのに、赤子の手を捻るより簡単に、瞬き一つの間に息の根を止められる。
まさに、鬼神のような戦いぶりだった。
嫌な汗が、背筋を伝った。
「まだやるか、それとも手を引くか」
男は息も乱さず言った。
そんな男と膝をついて倒れた仲間を交互に見ながら、残りの刺客達は恐怖に後ずさった。
「――」
「雇い主に戻って伝えろ。皇子の身柄は俺達がいただく。命が惜しくないなら来い」
低い声音は、震え上がるほど本気だった。
さらに後ずさりすると、残りの刺客達はあっという間に踵を返し、逃げていった。
短剣を鞘に戻すと、男は唖然としている二人に向き直った。
「さてと、大人しく剣をおくか」
それが自分達に向けられていると気づき、アウレシアは我に返る。
「誰が」
吐き捨てるように、アウレシアは一歩前に出て剣を払った。
「まずはあたしがお相手しよう」
長剣を構え直し、男に向き直る。
「時間稼ぎならやめておけ」
慣れた仕草で、男は背に負った大剣を抜いた。


