「何言ってんだよ、ライカに言われたろ? あんたが戻ってどうするんだよ。まだ刺客がいたら、それこそ敵の思う壺じゃないか」
「戦う。今の私なら、戦える」
「――グレン、前にも言ったろ。あんたに剣を教えたのは、身を守るためだ。あんたが出るのは、最後だよ。まだその時じゃない」
「むざむざ私の護衛が死ぬのを見ていろというのか!?」
 憤慨したように声を荒げるイルグレンを、不意にアウレシアが手を上げて止めた。
「待った、蹄の音が――」
 言われて、イルグレンは耳を澄ませた。
 洞窟の入り口側から聞こえる土を蹴る音。
「ライカだ!」
 イルグレンは待ちかねて立ち上がった。
 アウレシアも立ち上がるが、その表情は険しい。
 何か違和感がした。
 蹄の音が――多すぎる! 

「――グレン、違う!!」

 だが、遅かった。
 イルグレンはすでに外に飛び出していた。
 アウレシアがイルグレンを追って外に出ると、イルグレンはそこに立ち尽くしたまま動かなかった。
 目の前には馬に乗ったたくさんの男達。
 二十人以上はいるだろう。
 全員が覆面をしている。
「金に紫――この顔だ」
 顔を隠した一人が、言った。
 ぞろぞろと男達は馬を降りた。

「何と、こちらが本物だったとは――よく似た身代わりを集めたものだ。言われなければわからなかった」