「グレン、座りなよ。いつまで歩き回るつもりだい」
 薄暗い洞窟の奥を行ったり来たりするイルグレンに、アウレシアは声をかける。
「じっとしていられるか。こんな時に」
 アルライカを行かせてから、どれくらいが過ぎたかはわからないが、イルグレンにはとても長く感じられた。
「あんたが歩き回ったからって、事態が変わるわけじゃないだろ。それよりは、休んでおくんだ。ライカが戻ってきたとき、すぐに動けるように」
「――」
 渋々と、イルグレンはアウレシアの向かい側に腰を下ろす。
 だが、焦燥感はじりじりと胸にせまり、心臓が早鐘を打つ。
 考えたくもないのに最悪の状況が頭に浮かぶ。
「私のために、皆死ぬのか――」
 小さな呟きに、アウレシアが首を横に振る。
「死なないさ。ケイもソイエもライカもべらぼうに強いって言っただろ? きっとみんな無事だよ」
 その言葉を、今のイルグレンには信じる余裕がなかった。
「私一人の命のために、誰かが死ぬなどもう耐えられない。私の命に、この血に、それだけの値打ちがあるというのか? たくさんの命を犠牲にしてまで生き残る価値が――」
「グレン――」
「レシア、戻ろう。戻って確かめないと。こんなところでじっと迎えを待つだけなんてこれ以上耐えられない」
 そう言ってイルグレンが身を乗り出す。
 慌ててアウレシアがその腕を掴んだ。
 そうでもしないと、今にも立ち上がって走り出そうとしているようにも見えたからだ。