とどろくように皇宮を焼き尽くす炎は、黒煙を従えて、その勢いは未だとどまることを知らないかのようにも思えた。
 そして、それは死人を冥府へと送る弔いの篝火のようにも見えた。
 この世界では、火は邪悪を消し去る神聖なものとして扱われている。
 象徴ともいえる皇宮が炎に包まれた時、民衆は口々に呟いたという。

 火の神の怒りによって、邪悪は滅び去ると――

 そして、迫り来る業火を背に、女はじっと広場の中央を見据えていた。
 門前にある血だまりの広場の中心には、たくさんの首のない骸が転がっていた。
 全てこの国の皇族とその姻戚にあった者だ。
 首はすでに皇宮の外で晒されていた。
 皇帝、皇后の血に連なるものは全てが捕えられ、異例の略式裁判を経て、処刑されている。
 すでに死んでいた者も集められ、晒すために首を切られた。
 中にはこの業火に見舞われて判別のつかぬ無残な遺体さえある。
 民衆の怒りはそれほどに凄まじかった。

 神々の末裔とも呼ばれる皇族はこの日滅んだのだ。

 そして、皇国もともに、滅んだのである。
 おびただしい死体と鮮血に敷き詰められた広場に立ち尽くす女は、小さく呟いた。

「足りないわ。これでは足りない」

 皇宮に勤める女官の装束をした女は、美しい顔を静かな怒りに染めていた。