全速力で馬を走らせ、アルライカは戻る。
 ソイエライアとリュケイネイアスのことだから、彼らは大丈夫だと信じている。
 ただ、護衛たちに関しては、アルライカは確信がなかった。
 自分とアウレシアが抜けたなら、戦力は格段に落ちたはずだ。
 ソルファレスもいるなら、多分馬車を囲んで陣を組むはずだ。
 動いて敵を翻弄する自由な戦い方を得意とするアルライカには、防衛戦は性に合わない。
 今回は主力がこちらなら、自分達が倒したほうより手練《てだれ》も多いはず。
 こちらに死人が出てもおかしくはない。
 せめて、鍛え上げたあの五人が死んでいないことを祈った。
 せっかく仲良くなった護衛が自分のために命を落としたと聞いたら、きっとイルグレンは悲しむだろう。
 心根の優しいあの皇子が悲しむのは見たくなかった。
 記憶にある木々の間に見える野営地が視界に入ったとき、そこにまばらに散らばるたくさんの黒い影にぎょっとする。
 死体だ。
 ぎりぎりのところまで近づいて馬を止め、死体を見ると、全て刺客だ。
 馬車の周りを囲んで座り込んでいる者達は護衛だ。
 返り血が剣や衣服に飛び散っている。
 比較的余力のある者は、怪我をしているだろう仲間の手当てをしている。
 近づいてくるアルライカの姿を見て、気づいた者は一様にほっとして表情を緩めた。
 死体を越えながら避け、一番近かった一人に声をかける。
「皆無事か、ソイエとケイは!?」
「渡り戦士殿は、馬車で、手当てを――」
 そこまで聞くと、アルライカは急いで皇子の馬車へと走った。
「ソイエ!!」