確かに、皇子の言うことには一理ある。
 アルライカは渡り戦士だから、統制された軍人の集団戦の強さを知ってはいるが、それはあくまでも百人以上の大軍団だ。
 あの二十人足らずの護衛達で、しかも非戦闘員を守りつつ戦って無傷で勝利するところなど見たことはなかった。
「――だからって、お前を連れてくわけにゃいかねえだろが。何のための身代わりだよ」
「そうして、私に皆を見捨てろというのか。そんなことはできない」
 イルグレンは必死だった。
 エギルディウスとウルファンナ、ソルファレス、アルギルス、そしてここまで着いてきてくれた護衛の者達、渡り戦士のリュケイネイアスとソイエライア。
 たくさんの大切な人々の顔が思い浮かぶ。
 誰か一人が欠けても駄目なのだ。
 もしも翼があるなら、今すぐにでも飛んで行きたい。
 彼らを救いに。
 だが、自分は戻れない。
 戻って彼らの全てを救えるだけの腕もなかった。
 もしも、彼らを救えるのなら、それは、アルライカしかいない。
「私が戻れないなら、ライカが行ってくれ。皆を死なせないでくれ!」
 今日斬った人間達たちと同じように、彼らが死んでいくなど、想像でも耐えられない。

「私の代わりに死ぬのは、母上だけで充分だ。誰一人、もう死ぬのはみたくない――頼む、行ってくれ、ライカ!!」

 アルライカは小さく舌打ちした。
「――レシア、グレンを奥に連れてけ。この先を北西に進めば泉の近くに洞窟がある。俺らが迎えに行くまでそこを動くな」
「了解」
 アルライカが急いでもと来た道を戻る。
 アウレシアとイルグレンも奥へと走った。