「皇子を狙った刺客だと?」

 見張りとして先に行かせた男衆の内の一人が戻ってきていた。
 このまま順調に行けば、あと一週間で皇子達の一行を捕らえられるはずだった。
 この行程で、自分達を出し抜ける者がいるはずはなかったのに。
「どういうことだ、ハラス。砂漠を越える以外で、俺達を出し抜くとは。昼夜を問わず駆けてきたとでもいうのか」
 戻ってきた手下から、驚くべき報告を聞かされる。
「東からじゃありません、統領。刺客は西から来ました」
「西……サマルウェアか――」
 情勢が変わったか、一部の独断か。
 何にせよ、自分達以外も皇子を狙っている。
 ここまで来て、むざむざと皇子を殺させるわけにはいかない。
「地図を出せ」
 傍に控えていた男衆がすぐに地図を広げる。
 ハラスと呼ばれた男は、地図の北にある街を指差した。
「襲撃を受けたのは、皇子の一行がこのシバスという街を出てからです」
「渡り戦士の元締めの故郷だ。レギオンの直轄だから、そこを出るのを狙っていたな。
 順序立てて説明しろ」
「襲撃を受けたのは、今から一週間前です。その前の日、レノが近づきすぎて気配に気づかれました。跡は残していないので、見つかりませんでしたが。
 女戦士と若い護衛と、最初にレノに気づいた恐ろしく体格のいい渡り戦士の男の三人でした。統領にもひけをとらない男です」
「女戦士がいるのか」
「はい、なり立ての護衛を鍛えているのか、女戦士と若い護衛はよく一緒に見かけました。
 北のシバスを出る前は女と若いのの二人だけだったのに、シバスを出てからは、入れ替わりで二人の渡り戦士が付き添い、三人になりました」
 男はしばし考える。
 なり立ての護衛――何かがひっかかった。