皇子も、それに気づいた。
 打ち込んだ瞬間、大きな違和感を感じた。
「――」
 今までやってきた打ち合いとは、明らかに違う。
 今までに皇子と剣術の相手をしてきたのは、みな、皇宮の近衛だ。
 彼らとの打ち合いでは、もっと重く、激しい手応えを感じたのを覚えている。
 しかし、今は思い切り打ち込んでいるのに、手応えがなかった。
 剣を交わしている気がしない。
 そして、何より、女戦士の動きだ。
 男の力任せの動きとは違う、滑るような動き。
 決して止まらず、絶えず流れている。
 攻める動きはしなやかな鞭のようで、かわす動きはそよ風に揺れる絹のようだった。

 なぜにこんなにも違うのか。

 力任せに打ち合えば、体力的には敵わない女戦士の戦い方なのか。
 彼女だけが特別なのか。
 それだけではないような気がする。
 相手が打ち込んで来るのさえ、勝手が違った。
 打ち込みは一瞬で、強く、腕が痺れるほどだ。
 しかも次の攻撃が速い。かわしては打ち込み、またかわしては打ち込む。 運よく打ち返した手ごたえを感じたときでも、すぐに間合いを取られ、体勢を整えられる。

 受け流しているのだ。相手の剣の向かうほうへ。自分も。

 タイミングが悪ければ刃が流れる。下手をすれば自分の指が落ちる恐れもある。
 それだけでも女戦士の動きは見事だった。
 そして、気づいてしまった。
 今まで自分に剣の指南をしてきた者達は、みな、手加減をしていたのだ。
 エギルディウスの指示か、近衛隊長の命令か、皇子に怪我をさせぬよう厳命してあったのだろう。
 彼らは決して本気で、打ち合ってはいなかった。
 気迫が違う。
 女戦士は自分が皇子であろうと関係なく、自分を打ち負かすために本気で勝負している。
 今はっきりと、それがわかった。
 目が離せない。
 女戦士の動きから。
 このように真摯な剣の交わし合いを、この時間を、少しでも引き伸ばしたかった。

 こんなにも、剣を交わすのは心が躍ることだったのだ――