着替えを済ませて剣を持って戻ってきた皇子を、アウレシアは一瞥する。
 華美ではあったが、一応剣を使えるよう上衣の裾の短い、貴族の子弟の着るような略装である。
 剣も借り物であろう、装飾のない、どこにでもある長剣だ。
 これでもかと身を飾っていたきらびやかな宝飾も取り外すだけの分別はあるようだ。
「相手の剣を奪うか動けなくすれば勝ちだ」
 すらりと剣を抜き、アウレシアは皇子に向けた。皇子もまた剣を抜き、構える。
「私が勝ったら、本当に先ほどの暴言を取り消すのだな」
「ああ、勝てるならね」
 最初に動いたのは、アウレシアのほうだった。
「――!!」
 一気に間合いを詰めて、剣を横に払った。
 皇子は咄嗟に退いたが、ほんのわずかの差だった。
 すかさず二人は体勢を整える。
 こうして、息をつかせぬ勝負が始まった。
 護衛隊長のソルファレスと元宰相のエギルディウスは、苦虫を噛み潰したように渋面で見ている。
 守ってもらうはずの渡り戦士と剣の勝負など、普通はしない。
 あまりにも不用意な皇子の行動に、これからの道中を不安がっているのだろう。