どんな気休めも、女には届かない。
 通り過ぎる風のように、ただ、告げられるだけ。
 女の絶望は、言葉では救えない。
 失った痛みが強すぎて、失くしたものをあまりにも愛していすぎたから、それ以外の何も見えなくなっている。

 そして、何より、女は絶望していたいのだ。

 死ぬはずだった自分をつかの間引き止めているのは紛れもなくその絶望だから。
 胸の内に絶望が在る限り、まだ、生きていられる。
 この世界で生きる意味がある。
 皇族の全てを滅ぼすまで、その苦痛は女を生かしてくれるのだ。
「――」
 笑わない女を、男はそっと抱きしめる。

 リュマ。
 そっと男は呟いた。

 姉を救ってやれ。お前にしかできない。

 リュマ。
 そっと女は呟いた。

 待っていて。もうすぐいく。あんたの所へ、もうすぐいけるわ。

 身体はこれ以上ないほど近くにあっても、心は果てしなく遠かった。