美しいが人形のようだと、アウレシアは思った。
 整った気品のある顔立ち、荒れを知らない白い肌。
 美しい指輪をはめた長い指は、彼女の知っているどんな男のものとも違っていた。
 傷一つなく、ファラン(竪琴)の演奏がよく似合いそうな手入れの届いた爪は、女の手を思わせた。
 絹を着て生きていくのが当然のような、餓えや寒さなど知らずに生きていくことが運命づけられているように、目の前の皇子はあまりにも現実とはかけ離れていた。
 軽く頭を振って、アウレシアは目に毒なその浮世離れした姿を追い払おうとした。
 その何気ない所作に、人形のように無表情だった皇子の視線が動いた。

「女がいるではないか!?」

 その声に、一同の視線がアウレシアに向けられる。
 視線を向けられて、
「?」
 自分がなぜこの若い皇子の目に止まったのか未だわからぬアウレシアであったが。

「女に、護衛がつとまるのか」

 その傲慢ともとれる言葉に、一瞬で顔つきが変わった。
 だが、それはアウレシアのほうだけではなく、彼女を取り巻いていた仲間の男達のほうもだった。
 彼らは一様に次のアウレシアの行動をはらはらしつつ眺めていた。
 彼らにしてみれば、この若い皇子の言動は無知というより無謀としか言いようがなかった。