空になった杯に酒が注がれるのを視界の片隅にとらえ、我に返る。
 同時に、馴染み深い酒場の雰囲気も戻ってくる。
 男衆達の鼾。
 煙草と香辛料と酒の交じり合った臭い。
 口の中に残る度数の強い酒の心地よい後味。
「――」
 とても永い時が、経ったようにも思える。
 それとも、今までのことは、全て夢だったようにもか。
 あそこを離れてから、なにもかもがめまぐるしく変わった。
 だから、全てのことが現実離れして感じるのだろうか。
 リュマは死なず、皇国は滅びず、女の絶望になす術もなく立ち尽くす無力な自分を知らずにすんだ頃に今もまだいられるような、そんな錯覚に襲われる。
 だが。

「何でだろうな。あんなに華奢で、俺がちょっと力を入れて殴ろうものならたやすくふっとびそうなほど脆く見えるのに、決してなにものにも屈しない」

 痛みは現実だ。
 弟のように可愛がっていたリュマはもういない。