今はただ、全てが憎かった。

 貧しさも、餓えも、貴族も、皇族も。
 この世界が。
 この国が。
 幸せになれない、この存在が。

 虚ろだった眼差しに力が宿り、それが強い怒りに変わるのを男は見た。

 弟を返してくれ。

 女の瞳は、そう言っているようにも見えた。
 だが、きっと女はそんなことは言わないだろう。
 男の思い通りに女は告げた。

「この国の崩壊を。皇族全ての滅びを――それがあたしの望みよ。あんたにそれが、できると言うの」

 叶えられるものかと、女は男を見据えた。
 絶望の中に、まだ怒りが残っていた。
 このような理不尽で残酷な結末を齎らした全てのことに対する怒りだ。
 それは力強い眼差しだった。
 怒りとともに男を見据える女は美しかった。
 男は小さく笑んだ。

「いいだろう。お前の望みを叶えてやる。
 お前は生きて、その結末を見届けるんだ」