「嘘よ……そんなはずないわ……」

 小さく小さく、その呟きは漏れた。
 男は、皇宮の外で、何が起こっているか短く話した。
 物価が高騰し、庶民が二倍近くとなった税金を払えなくなり、餓えに苦しんでいること。
 そうして、何人も餓死者が出ていること。
 リュマも、その内の一人であったこと。
 多分、女が仕送りを続けていても、リュマは餓えていただろう。
 食料自体がなかったのだ。
 この皇宮以外に。
 店は軒並みつぶれていた。
 先を読めるものなら、とっくに国外に出ていた。
 貧しく、行く当てもない弱い者達だけが、残り、真っ先に死んでいったのだ。
「……あの子は、どこにいるの? 家に?」
「――いや、知り合いの医者のところだ。葬儀の手配は整えた。明日には荼毘にする」
 女がはっと顔を上げた。
「それは、あたしの役目よ。あの子を送るのは、身内のあたしじゃなくては」
 焦燥にかられたように、女は動いた。
 男をその場に残し、女は作業小屋をとびだした。
「おいっ!」
 男は一瞬呆気に取られたが、すぐに女の後を追った。
 女の足は速かった。
 男が乗り越えてきた使用人の使う通用門の錠を開け、屋敷の外へ出る。
 そして、南東へ向かって追い立てられるように走った。

 弟のところへ、行かなくては。

 その思いだけが、女の心を占めていた。