「ソイエ、ライカ、レシア――護衛隊長のソルファレス様と、依頼主のエギルディウス様だ」

 つらつらと思考に耽っていたアウレシアだが、不意に、現実に引き戻される。
 紹介されて、敬礼――右手を心臓の上にあて、深く礼をする――をする。顔を上げると、

「いけません、殿下――イルグレン様!」

 若い娘の声にその場の者はみんな、声のしたほうに視線を向けた。
 大きい馬車の扉が開いて、出てきたのは――
「イ、イルグレン様! 外にお出ましになるなど!」
 ソルファレスが咄嗟に動くが、遅かった。

「退屈なのだ。息抜きをさせよ、ファレス」

 のんびりとした声が返る。
「そのようなお姿を我々下々の者の前に晒すなど、畏れ多いことでございます!」
 必死の口上にも気にした風もなく、涙目の侍女を後ろに従えて、二十歳は確実に超えてはいないだろう青年と少年の狭間の端正な面立ちの若き皇子を、アウレシアはリュケイネイアスの斜め後ろから目にした。

「――」

 暁の皇国の皇族の正装であろう、薄絹を重ねた上質の絹の長衣に身に着けた数々の宝石類。
 動くたびにしゃらしゃらと宝飾品が擦れ合ってひそやかに音を立てる。
 長く伸ばした金の髪は後ろに流して絹糸のように揺れている。
 なんとも典雅な動きは別世界の宗教画のよう。
 この辺鄙な街道の三叉路に、あまりにもそぐわない光景であった。