「すみません、せめて明かりを使うことを許していただけないでしょうか」
「何を言っているの!? 姫様が眠っているのよ。明かりが洩れたらお起こししてしまうかもしれないわ。大きな音をたててもいけないわよ、これ以上、姫様の御不興を買いたくはないでしょう」
 中庭の木立の影で、男はそんな声を聞いた。
 姫という言葉が聞こえた。
 ここで働く侍女に違いない。
 こんな時間まで起きているなら、下働きだろう。
 音を立てないように慎重に近づく。
 観賞用の大きな窓と、その横に出入り口が一つ見える。
 その出入り口の近くに立って命令している侍女は窓を背にしてこちらを向いていた。
 そして、男からは後姿しか見えないもう一人の侍女は、頭を垂れてその命を聞いていた。
「リュシア」
「はい」
「いいこと、見つけるまで戻ってくるのは許さないわよ」
「はい――」
 意地悪そうに言い捨てて、年上の侍女は屋敷の中へと消えた。
「――」
 男は驚いた。
 年上の侍女は、もう一人をリュシアと呼んだ。
 リュマの姉だ。
 生きている。