皇宮は、少年の言ったとおり、戒厳令が布かれ、物資の補給以外の出入りができないようになっていた。
 補給も皇宮の官吏がするため、外部の者が入り込むのは不可能だった。
 なので、男は水路から、皇宮に入ることにした。
 水源の豊かなこの国は、いたるところに地下水路を張り巡らせてある。
 皇宮の地下水路は侵入者を防ぐために、迷路のように入り組んではいるが、道筋を知ってさえいれば、見咎められることなく入ることはできる。
 裏からのつてで、迷路のような水路の見取り図はすでに入手して覚えた。
 水を通さない革袋に着替えをつめ、水路に入る。
 空気をつめただけの革袋も2つ準備した。
 記憶した通りに曲がり角を右へ左へと進むと、徐々に水音は緩やかで静かなものから、速く激しいものへと変わってゆく。
 そして、最後の角を曲がると、両脇の人一人が通れるほどの通路は途切れた。
 壁の下半分ほどに半円の穴が開いている。
 ここからは完全に水路のみだ。
 穴には、上下に伸びる鉄柵が渡されており、水以外の侵入を阻んでいる。
 しかし、男が歩いてきた左側の端には、大人が一人、なんとか通れるほどの隙間ができていた。
 事前に鉄柵が切られていたのだ。
 以前にも、この水路を通って、誰かが皇宮に入り込んだ証拠だ。
 そして、今まさに、男がそれを実行しようとしていた。
 邪魔にならぬよう、無駄なものは全て革袋につめた。
 水の冷たさに体温を奪われるため、服は身に着けたまま入らねばならない。
 動きの邪魔にならぬようできるだけ身体にぴったりの厚い素材にした。
 武器は短刀のみを懐に入れ、長靴《ちょうか》も履いたまま、革手袋もはめたまま、男は流れの激しい水に入り、鉄柵の向こうへと壁伝いに歩き出した。