その時、男の脳裏を占めていた感情は、悲しみよりもまず怒りだった。

 どうして、もっと早くリュマのもとへ来なかったのか。
 もっと早く来ていたら、こんなことにはならなかったのに。

 たった十で、あの子は死んでしまった。
 餓えて餓えて、骨と皮ばかりになって、たった一口の水に満足して死んでいった。

 あの子が何をした。

 世の中には、死んでいい人間がたくさんいる。
 生きる価値などない悪党など、ごまんといるではないか。
 それなのに、なぜ、あの子が死なねばならないのだ。
 あの善良で優しいリュマが死ぬ理由が、どこにあったのだ。
 こんなにか弱く稚い命が、簡単になくなってしまう国。
 民を餓えさせ、尊厳を奪い、惨めに死なせる国。
 それが、麗しの皇国か。
 神々の末裔の住まう国なのか。
 激しい怒りが、男を動かした。

 皇宮に入らねばならない。

 あの聳え立つ白亜の壁を越えて、少年の姉を探さなければならない。
 最期まで姉を恋うていた少年に、してやれることはそれしかなかった。