男は寝台に駆け寄り、膝を着くと、腰に下げていた皮の水袋の口を開け、少年の口元に寄せる。
 乾いた唇の間に、水が流し込まれる。
「……」
 骨の浮き出た喉が、何度も大きく動いた。
 嚥下した後、少年は辛うじて聞き取れるほどの声を喉の奥から振り絞った。

「お姉、ちゃんからの、手紙が、こないん、だ」

 皇宮からの便りが途絶えて、すでに半年は経っていること。
 心配になって何度会いにいっても、取り次いでもらえなかったこと。
 以前姉からの手紙と仕送りを運んでくれた女も来なくなったこと。
 荒い息の中、必死で少年は言葉を搾り出す。
 姉を探してくれと。
 会いたいと、少年は告げた。
「大丈夫だ。俺が探してやる。探して、連れてきてやる」
 男は少年を抱きあげ、そう言った。
 ここにいてはいけない。
 抱き上げた少年は、背に負った剣よりも軽かった。
 その時すでに、確信した。

 この子は、もう助からない。

 医者に診せたとき、少年の魂はすでに冥界へ足を踏み入れようとしていた。
「みず、を」
 それが最期の言葉だった。
 一口、飲み干すと少年は満足そうに笑った。
 そうして、そのまま息を引き取った。