町へ入るなり、男は呆然とした。
 あまりの町並みのかわりように。
 最後に訪れてから一年と経たずに、その界隈は貧民窟と化していた。
 乾いた石畳の上に横たわる痩せこけた人々。
 骨と皮ばかりの手を伸ばし、物乞うたくさんの人々。
 通りはそんな情景に溢れている。
 胸騒ぎを覚え、男は走った。
 見慣れたはずの少年の家へと急ぐ。
 些か乱暴に扉を叩くが返事がない。
 錠のおりていない扉は、簡単に開いた。
 薄暗い室内で、男は異臭を嗅いだ。
 病んだような、饐えた臭い。
 年老いたものの死に逝くような、そんな臭いを。
 寝台に横たわる小さな身体を視界に捕らえたとき、男は叫んだ。

「リュマ!!」

 あの愛らしい顔には、すでにその面影は失われていた。
 頬は痩け、落ち窪んだ眼窩。
 骨と皮ばかりの細すぎる腕。
 薄い布越しに浮かび上がる肋骨。
 土気色の喉からは、乾いた音が漏れるだけ。
 少年はひび割れた唇を震わせていた。
 何かを語ろうとしていた。
 だが、もはや声を出す力さえ、残されてはいなかったのだ。