ただ、問題は今回の依頼主がただの貴族ではないということだ。
 皇族――しかも生き残った唯一最後の皇国の血統の継承者だ。
 渡り戦士は依頼されればどこにでも行くので、アウレシアも暁の皇国に何度か仕事で行った事はあった。
 一度だけ見に行った美しい白亜の皇宮が焼失したのは少々残念だが、内乱が成功するほど、政治がおかしくなっていたことのほうが驚きだった。
 内乱後の国元では皇子が生き延びたことを知っているのか、知っていても公に出来ないのか、取り敢えずは暫定政府が出来て、内乱の後始末に乗り出しているらしい。
 サマルウェアに着いてから、皇子がどのようにするのかまではわからないが、とにかく、無事に公都まで送り届ければいいのなら、皇子だと気づかれぬように秘密裏に事を進めねばならない。
 そう考えると今回の仕事も、そう難しくはないはずだ――アウレシアは考えを改める。
 貴族の旅の護衛など、実は楽すぎて張り合いがないほどだ。
 護衛を頼む貴族達の中には、生命の危険があるなどと大げさな物言いをすることが多い。
 そして、大半は馬車から出ることもなく目的地までの道程を陰欝として過ごす。
 雇われた護衛の渡り戦士達と交流など持つはずもなく、大人しく馬車で過ごしていてくれるのでこちら側としてはとても助かる。
 しかも、あらかじめ用意した護衛の兵がいるため、先頭としんがりを務める腕の立つ道案内人のようなものだ。