目を覚ましたのは、食欲をそそるような匂いをかぎ分けたからだった。
「――」
「あ、起きた? ご飯食べるよね」
 声をかけられて、自分が床に寝ていたことに気づいた。
 毛布がかけられており、頭の下には、枕もある。
 起き上がると、昨日の混ぜ物のせいか喉が異様に乾いていた。
「先に、水を、もらえるか?」
「うん、待ってて」
 台所の脇の取っ手を二、三度押すと、蛇口から水が出てくる。
 硝子杯に並々と注いで持ってくる。
 男は一気に飲み干した。
「もっと?」
「ああ、頼む」
 もう一度受け取った水を、今度はゆっくり飲み干して、男は息をついた。
 杯を返すと、少年はにっこり笑って受け取った。
 着ている服に似合わぬ、貴族のような端正で愛らしい顔立ちだった。
 その人懐こい様子に、男は内心戸惑う。