二年前、男は暁の皇国の酒場で、いざこざに巻き込まれた。
 賭け事でいかさまを見破ったからだ。
 何のことはない、自分以外がみんなグルだったのだ。
 見破っただけなら、争いごとにはならなかったが、勝負が無効だと金を取り返したのが悪かったらしい。
 酒場を出て人気のないところで襲われた。
 大剣を持ってこずに、細身の短刀しか持っていなかった。
 それだけなら、どうということもなかったが、酒にどうやら混ぜ物がしてあったらしく、闘っている最中だというのに、強烈な眠気に体の動きが思うようにきかなくなった。
 相手は八人。
 多勢に無勢だ。
 三人を切り倒したところで、男は逃げた。
 小路に入り、ひたすら走った。
 暗い上に意識が朦朧としだして、自分がどこにいるのかもわからなかった。
 何度目かの角を曲がったところで、足がよろけて壁にぶつかった。
 これ以上は逃げ切れない。
 なら、残り五人を切るしかない。
 小路が狭いから、一斉には襲って来れないはずだ。
「……くそっ」