男は、無言で杯を上げた。
 男衆達もそれに習う。
 しばらくは他愛もない会話で時が過ぎる。
 徐々に酒場から部屋へ引き上げる男衆達。
 他の客はすでにいなかった。
 残ったのは、男と、砂漠慣れしている男衆の一人と、その周りで酔いつぶれて寝ている残りの男衆達だった。
 気持ちよさげな鼾に苦笑しながら、男は杯をあおる。
「統領も、そろそろ戻ったほうが」
「朝まで戻らんと言って来た。一人のほうがよく眠れるだろう」
「本当に、気丈な娘ですねえ」
「そうだな、正直、途中で音をあげるかとも思ったんだがな」
 ためらうように、かかる声。
「復讐なんて、気持ちのいいもんじゃないですよ」
「そうだな。俺もそう思う」