………ギュッ
「あーもー、何やってんだろ、俺。」
ふいに抱き締められたうちの身体。気付いたときには、なぜか再び伊藤の胸の中にいた。
どこか乱暴で不器用で、それでいて温かい...こんなちゃらんぽらんの胸の中でそんなこと思うなんて、やっぱうちどうかしてる。
「 木崎チャン悲しませたかったわけでも、怒らせたかったわけでもないのに。
木崎チャン見てるとさ、いつもの俺じゃなくなんだよ、意地悪ばっか言っちゃうし。
俺のこと、殴って?木崎チャンにサイテーって殴られりゃ、さすがに俺のイカれた頭も治るっしょ。」
そう言って顔を若干赤く染めながら自嘲気味に笑う伊藤。
伊藤の滑らかなアルトボイスが耳のすぐそばで発せられて
話すたびに伊藤の息が、うちの前髪を揺らして
不思議と抱きしめられてるのが当たり前のような、ずっと昔からこうしてるような気にさせられる。
「 …殴る代わりに、
殴る代わりに、しばらくこのままでいてよ。」
自分の口から出たなんて信じられない言葉が、自然と口からこぼれ出る。
伊藤から返事はなかった。
返事の代わりに、ぎゅーっと力強く抱きしめられたから。
苦しいけど、全然苦しくなかった。なんでかな……
その答えは、もうなんとなくわかっていた。

