「…うっさい!」
妹がびくついたのがわかる。
うん、びくつかせたのはうちだ。
ごめんね、由紀ちゃん。
でも! ヤバいの…
大きな瞳いっぱいに涙を溜めて、訴えかけるように見つめてくる由紀ちゃんから目を逸らして…
「もー行く!」
ローファーを足に突っかけて、急いでドアを押す。
…ガチャリ
ドアの開く音。
家を飛び出る瞬間…
「夕花ぁ!
遅刻してもいいから事故にだけは遭わないでね!
気をつけていってらっしゃい!」
お母さんの大きな叫び声が聞こえた。
…さっき、うち怒鳴ったのに。
怒鳴っちゃったのに、お母さんは怒りもせず、うちの心配だけをしてくれるんだ。
お母さん、ごめんね…
ううん、ありがとう……
胸の奥がわしづかみされて、キューっとなったのがわかった。
目頭から、じんわり生暖かいものが滲んできたのがわかった。
お母さんの無償の愛情が、
暖かい大きな愛が、
ただただ、嬉しかったんだね。
家を飛び出すと、
外は、蒸し暑い梅雨独特の生温さ。
体を撫で回すような生温い風。
でも、空を見上げると、そんなのも吹き飛ばしてくれるくらいキラキラと輝く太陽が
雲の切れ目から顔を出していた。
うちは、その中を走る。
風をきって、走る。

