黒い、影が。
『諦めて、醒めない夢においでよ。オヒメサマ』
もう、耐えられないな。
私はもう、醒めないことにする。
貴方のことが、嫌いだからではないの。
隣に居ると、黒い影に襲われなくて済む。ただ、それだけなの。
私にとって貴方は、王子様だった。
ただ、それだけなの。
でもこれ以上、素敵な王子様を殺してしまうようなことはできない。
本当のことを、ひとつも伝えられなかった。
本音を、本当のことを言える関係が愛に繋がると言うのならば、私のこの気持ちはきっと、ずっと、愛に届かない。
恥ずかしかったからかな。怖かったからかな。
貴方が、私を置いて行ってしまう未来が過ぎって、怖くて仕方がなかった。
「ありがとう、おやすみ」
「おい……」
さよならは言わない。
けれどもう、会わない。近づかない。
もう醒めなくていいよ、真っ暗な夢。
最初から、こうなって欲しかったんでしょう?
『ああ、ようこそ』
貴方と居ると、眠くなるのは。
目覚めたときも、そこに居てくれて、優しく声をかけてくれるからなんだよ。
一人じゃないって、思えたからなんだよ。


