どうして今思い出したのかも、なんとなく、わかる。
「ムリ、すんなよ」
「うん……」
「お前、眠そうだし今日はもう送ってくわ」
「え」
「ほら、俺だって男なんだし。一人暮らしだし、……これ以上いわせんなよ」
「……うん」
早く帰って欲しいんだと、遠まわしに言われた気がして酷く哀しんでいる、自分が居る。
そうか、彼にとって一応そういう対象として私のことを見てくれてはいるのか。私がこんなだから、言えないだけで。
かれこれ四年になる彼との付き合いを、終わらせた方がいいのかもしれない。
いっそのことはっきりと壊れてしまえばいいのだ。そうすれば諦めもつく。
私はきっと、そうすれば。
長い眠りにつく。
白馬に乗って、茨を掻き分けてくる王子様も居ない世界で、眠りにつく。
ずっと醒めることのない、真っ黒な世界が手招きしている。
「今日はいいよ、一人で帰る」
「いや、遅いし」
「いいの。……いいの、ありがとう」
もうこれ以上はムリだ。白い夢を侵食して、黒い影が。


