読んでいるフリをしていた本を開いたままで机に置いた。
 まっすぐに、顔を上げて先輩を見る。


「先輩、」
「ん?」


 何もなかったことになんて、してほしくない。
 だって、たくさんもらった。
 いっぱいになって溢れても行き場がないなんて。

 なんてせつないんだろう。

 返事をした先輩は、手を止めて顔をあげる。
 柔らかでさらりとした髪が揺れた。
 セルフレームの眼鏡の奥、不思議そうに何度か瞬いた。
 私、今、どんな顔をしているんだろう。
 上げたままのきょとんとした表情で先輩はまっすぐにみていた。