少し前まではフツーに話をすることさえできなかったのに…。
そして一度は諦めたはずの彼のバイクの後ろに乗っけてもらうなんてことは、あたしにとって夢のような出来事だった。
でも、心臓が破裂しちゃいそうなほどの激しい鼓動は、夢の世界なら感じるはずもない現実世界の痛みそのものだった。
ほどなく彼は工場近くの河川敷にバイクを停めた。
あたしにとっては、とても長い時間走っていたみたいに感じられたんだけど、実際そこは工場から1キロ足らずの場所で、歩いて行けない距離じゃなかった。
あたしと彼は雑草のクッションの上に並んで座った。
でも、バイクの振動が止まってから少し時間が経っていたのに、あたしのカラダの振動はまだ治まり切っていなかった、
あたしはそのことを知られたくなくて、わざと距離を少しだけおいて座っていた。
「………」
だけど彼はそのことに気づいていたらしく、何も訊かずに静かに待ち続けてくれて、あたしにはあたしが落ち着いて話せるようになるまで、待ってくれているように感じられた。


